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まずは想像してみて下さい
建具とは例えば扉だったり障子だったり、あるいはもしかすると広義には欄間なども含まれる、職域範囲と考えて良いのかもしれません。何を言っているのかと言えば、勿論、各々の専門職を惜しみなくふんだんに集めれば間違いの無い仕事が出来るでしょうが、特にリフォームや改修工事の場合、各々の出番は少しずつですから、そんな事をしていては費用がいくらになるか分かりません。よって、結局はなんでも出来る大工とか、色々できる電気屋というのが重要になってくるのです。
しかし単に、動きが悪くなり、ゆがみで取り外しも出来なくなった古い引き戸を補修すると言われれば、正解かどうかはさておき、皆様もどんな作業をするのか、皆様ごとの手順は思い浮かぶことでしょう。
(1) 動きの悪くなっている位置を特定する
(2) 少し力ずくでも引き戸を外す
(3) 建具の高さを(1)に合わせて調整する
(4) 滑車を交換、ないしは手入れする
私なら概ねはこんな感じです。では正解を見てみましょう。
建具の高さ調整
引っかかっている建具の高さ調整なのだから、単純に丈を詰めれば済む・・・建具の長手方向を切断すれば良いだろう・・・私ならそんな風に考えてしまいますが、現実はチョット想像を超えます。
もともと建具はスライドする範囲において、ゆがみが無ければどの位置でも綺麗にはまっています。ソコをゆがみを原因に高さを低くするわけですから、調整を間違えば倒れてきてしまいます。また、写真の鴨居の凸凹になっている、凸の部分のつっかかりが解消できたとしても、凹の部分が引っかかったり、これは意外と、切れば良いというような安直に片付けられる作業ではないのです。
引き戸の円滑な動きをキープできる凸凹の山形が決まった後、更に今度は前後(奥と手前)のガタつきが出ないように、もっと細かい調整をしています。
そして更に想像を超えてくるのが右の写真です。お分かりになる方もあるかと思いますが、木材の端材で作ったストッパーです。考えてみれば建具は低くなっていますから、もともと動きの良い位置ではスピードが出過ぎます。
ソコまでしっかりフォローする、素晴らしい仕事なのですが、驚くべきは、これは建具師や指物師ではなく大工の仕事であると言うことです。
あえて書きますが、テレビ番組で「匠」が、どうやって使うのかもよく分からないような子供用のおもちゃ箱を、ディレクターに頼まれて無理矢理作ったりしていますが、そういう事とは違います。「匠」などと言うほどなのだから、断れば良いのに。
滑車
「経年劣化で滑車が痛んでいるのは分かる。だからホームセンターで新品を買ってきて、付け替えたら良いだろう。」私ならその様に考えてしまいます。
仕上がりを見ると、それだけでは引き戸は綺麗に動かないだろうと言うことに気づきます。
- 滑車の取り付け部分はへたっているから滑車の高さも合わない
- 滑車のビス穴は同じ所に空けると緩くなってしまう
という訳で、滑車を交換するというたったそれだけの事に、これほど多くの、しかも無駄の無い工程が必要になるのです。
更に
以上、全て「機能」に係わる補修でしたが、建築はそれだけでは勿論ダメであって、美しさや風合いが求められます(求められるべきです)。
木製建具に真鍮の手がかりは、一種のお約束でしょうし、和の空間が明るすぎれば、それはもう下品というものです。丁度良い案配の空間が、自然に感じられるのです。