マンション「手間いらず」の嘘 <実数編>
例外的な値上がりマンションや高齢者対応住戸等は除き、マンション建て替えは進みません。
数量を見つめると、恐ろしい現実が見えてきます。
目次
マンション総戸数
マンション総戸数は増えています
マンションは1962年の区分所有法の制定以来、国の持ち家政策や不動産バブル、逆に都心部の地価下落などを契機とした都心回帰現象などを追い風に、総戸数を伸ばしてきました。
特に大型、超高層物件が増加
特に供給ペースは1980年頃から東京の周辺部、神奈川、千葉、埼玉等での販売が進むと、2010年頃まで一気に加速し、その後、微増に転じ、近年では地方都市でも、旧来では考えられなかったような大型、超高層の物件が順次供給されるようになっています。
出典: 国土交通省統計
注:東洋経済新報社 地域経済総覧に別途、過大数値あり
要建て替えマンション戸数
築50年超マンションが増加、いつかは建て替えが必要
建設されたマンションは、当然に時間の経過と共に老朽化し、「マンション」という居住形態がこの世に現れて以降、一定年限を経過した2015年頃からは築年数が50年を超えるものが目立ち始めます。
マンションに限らず建物は、いつか必ず補修や修繕では対応が出来なくなり、建て替えなければなりません。
論点は修繕か建て替えかではない
マンションの場合、築50年は勿論、築40年頃から大規模修繕に係る費用と建て替えの費用が同等になったり逆転したりという現象が起こります。一般的に多くのマンション管理組合の議論は、大規模修繕と建て替えはいずれが費用的に有利か、あるいは経済合理性があるかという観点に終始しますが、本来の論点はソコではないのです。
出典: 国土交通省マンション建替検討会資料
建て替え完了マンション戸数
建て替えは順調に進んでいる?
このグラフだけを単独で眺めると 一見、「なるほど。順調に建て替えが進められているなあ」と認識してしまうかも知れません。しかしグラフの縦軸に着目いただくと、マンション総戸数、要建て替えマンションのグラフとの、桁の違いに驚かれることと思います。
出典: 国土交通省マンション建替検討会資料
建て替え完了したマンションは建て替えが必要なマンションのほんの一部
一例として2020年の戸数を比較すると、建て替え完了マンションが2万戸に過ぎないところ、要建て替えマンションは92万戸です。皆様のお宅の周りに、46棟の築40年超の老朽化マンションがあり、そのうちの1棟だけしか建て替えが出来ず、40棟以上のほとんど全てのマンションがスラム化を待っているという状況をイメージすると分かりやすくなるでしょう。
これがやがて全国に飛び火します。
そして現時点のマンションの総戸数は2,200万戸ですから、将来的には2,000万戸を超えるマンション住戸が建て替えが出来ずに、制度的には放置されていくと言うことになります。
マンションを販売する業者は建て替えの難しさを説明しない
数字のボリュームだけを眺めると、この国は一体、なにをやっているのかと、さっぱり理解できませんが、何より重大で深刻なことは、こうした事実をマンションの販売時に注意喚起している業者が、未だに皆無であるという現実なのではないでしょうか(当社は説明以前に、マンションの販売を、購入コンサルのお客様に対して、一切、致しておりません)。
要建て替えマンションの増加の推移
建て替えが必要なマンションが雪だるま式に増えていく
要建て替えマンションが増加している現状や将来推計はご理解いただけたと思いますが、必要な建て替えが順次実現できて行かないわけですから、もう一つ、大きな問題が起こります。建て替え完了マンション戸数の増加率よりも、要建て替えマンション戸数の蓄積の方が圧倒的に大きく、不良ストックの増加状況は加速度式になっていると言うことです。
雪だるま式にスラム化マンションがそこかしこに溜まっていくイメージが分かりやすいでしょう。
マンションは「建て替えができない住宅」
この状況を専門的見地からは、「頑張って建て替えている」などとは言うべきでないと思います。
「全く建て替わっていない」、マンションという資産は<例外編>で取り上げたようなものを除けば、「建て替えが出来ない住宅なのだ」と結論づけるのが正しいのではないでしょうか。
皆様が所有されている大切なマンションという資産が、いずれその時を迎えると言うことを、是非、今の段階から具体的にイメージして下さい。
まとめ
マンション建て替えについて誰もデータをまとめてない
これまでの事実関係、現状を整理してみましょう。
話が分かりにくい原因は、マンション総戸数、要建て替えマンション戸数、建て替え完了マンション戸数の各々の公表主体がバラバラで、調査年次もまちまち。これらの関連性を積極的に説明しようと言う意図で作成された資料が、今回の当社の取りまとめ以前に存在すらしていないためです。
比較すると見えない程度の建て替え完了マンション戸数
そこでこれらのグラフを統合してみます。共通の縦軸で書いてみれば、一気に分かりやすくなります。と、同時に、なぜ当社が色相協調を無視してまで、建て替え完了マンションのグラフにビビットな赤色を用いたのかがご理解いただけると思います。そのくらいの派手な色にしないと、あまりにボリューム感が違うため、目視でご確認いただくことが難しいと考えたためです。各々の年次の右端に、チョットだけ見えている赤色を見逃さないで下さい。
出典: 国土交通省マンション建替検討会資料
マンション建て替え問題のポイント
それ程、マンションは現に、建て替わっていないのです。
現在進行形のマンション問題のポイントは、概ね以下のようにご理解いただいておけば良いのではないかと思います。
- 概ね我が国には2,000万戸のマンションがある
- 要建て替えマンションは100万戸弱あり、増え続けている
- しかし建て替えが完了したマンションはわずか2万戸に過ぎない
- しかも建て替えが出来たマンションは、ほとんどが余剰容積を使って巨大化している
※例外事例は別記
今後の対応について
マンションの資産価値はどうなるか、考えるまでもない
まだ本項に書かれている統計、マンションの現実を知る人は極めて少数でしょう。
でもこれは、隠せる話ではないので、多くの国民の知るところとなるのは時間の問題です。
その時に、マンションという形態の資産の市場価値がどうなるか。
それは考えるまでもないことでしょう。
建て替えの難しさを重要説明事項に加えるべき
なぜ、この様な事実を知りながら、多くの不動産業者は消費者に告げずに、今でもマンションを平然と販売しているのか。国もなぜ、こんな統計があるのに、積極的に周知徹底の措置を取らないのか。少なくとも最低限、この事実はマンション購入の際の重要説明事項に加えるべきであると、当社は2000年の創業以来、提言しているのですが、改善される感触は一向にありません。
日本のマンションは建て替わらない<制度編>に続きます。