目次
過去の大規模災害の検証
東日本大震災の折、津波は福島、宮城、岩手の東北三県を含む、複数の膨大な長さの海岸線に来襲し、甚大な被害をもたらしました。
この時の津波の遡上距離は20km弱(国土交通省 東北地方整備局の取りまとめ資料には13kmとの記載あり)であり、これは同年6月の当社の現地調査の際の、全壊家屋の深刻な分布距離、10kmとも符合します。
また、阪神淡路大震災の折、被害が深刻であったエリアの一つである神戸市長田区でも、特に深刻な全壊家屋(全焼家屋)が密集しているのは南北方向では概ね3kmの範囲です。
これらの事実は長辺方向の被害に目が行きがちだからなのでしょうか、実際に、余り多くの方に知られているとは感じられません。
また、誤解の無いように申し添えますが、当然に当社はこれらの災害を軽視しているということは一切無く、むしろその深刻な被害から資産を守る方法を検討、提案しているのです。
災害リスクの距離的な分散
当社では上記現地調査の直後の2011年7月には、「被災長」という概念を提唱し、多方面に対して保有資産の距離的な分散を図ることの意義をお伝えしてきました。
当然にいずれ発生するであろう、次の大規模災害が、これらの過去の大規模災害の規模を越えない保証はありません。それでも、どういう規模の災害が発生するかも分からないというのならなお更、確実性も無い計算に基づいて防潮堤を大きくしていくよりも、保有する賃貸アパートを単純に離れた場所に複数棟保有するという考え方は、はるかに合理的であり、かつはるかに経済性にも優れていると当社は考えます。
たった一棟しかない資産が首都直下型地震等で甚大な被災をした場合、それが生活の糧になっていたのなら、国の支援を悠長に待っていることが出来るのでしょうか。仮に直ちに地力復旧を目指したとして、地元業者が何ヶ月先に捕まり、その時に適切な工事を丁寧に施工できる状況にあるのでしょうか。
その様に考えれば、同一エリア「だけ」に複数棟を保有しているケースが、災害リスクという観点からは最悪の状況であるということは簡単にご理解いただけるでしょう。対応しなければならない「入居者の数=被災者数」の様な状況になりますから、管理会社だけで対応出来なくなることも容易に想像できます。
運用資産である賃貸アパート同士を一定距離以上離して保有する。
たったそれだけのことで、大規模災害への対応力は格段に向上する可能性があると言えるのではないでしょうか。
その他の遠隔地保有のメリット
賃貸アパートの遠隔地保有には、ざっと考えてみただけでも災害リスクの分散以外にも、実は大変重要かつ多くのメリットがあります。
- 同一オーナー所有の物件同士が顧客を奪い合うことがない
- 同様に、賃料競走をさせられることもない
- 特定の管理会社への不健全な依存状況を自動的に回避できる
- 異なるエリアからの新しい運用方法や手立てを相互に取り入れられる
- そうしたオーナーが情報共有できると、効果は更に飛躍的に向上する
- そのノウハウが、当初の物件の運用や管理会社との業務条件にフィードバック可能
簡単にまとめただけでも、これ程度多くのメリットがあるため、当社では多くのオーナーが賃貸アパートの遠隔地での複数棟保有を指向するのです。
ここで問題となるのは、ではどこに、どういう管理体制で遠隔地運用をすれば良いのかということでしょう。それに関しても後段で順次、当社の事例にて説明をさせていただこうと思います。
ただ、一つ。遠隔地保有に後ろ向きなイメージをお持ちのオーナー様に質問をさせていただきますが、ご近所に所有されている物件、年に何回、しげしげと時間をしっかり掛けてご自身で確認をされていますでしょうか。入退居の何回おきに、室内点検をして、ご自身でクロス業者を選定したり、清掃業者の作業の仕上がりのチェックをされていますでしょうか。
仮にその部分を管理会社に任せているのだとしたら、その物件はどこにあろうと、先代から保有する土地に立っていると言うことくらいしか、その場所に存在する意味はないのです。
そして私たちの三世代前、現在の異常気象は生じておりません。
単に受け継いだ土地を、その場所でじっと守っていくことが、先祖から引き継いだ資産を守ると言うことには、なら無い時代環境になっていると言うことを、改めて認識するべきだろうと思います。
当社オーナーのケース
当社オーナーの遠隔地保有のパターンをいくつか紹介します。
(1) さいたま市と横浜市 居住地:世田谷区
この方はそもそも地主家系ではない、一般のサラリーマンというお立場です。
しかし災害リスクの分散に対しては強い危機感をお持ちだったため、さいたま市の物件の計画前から、既にさいたま市から離れた場所での二棟目のアパート保有を必須の課題と位置づけておられました。
ご自身が当時のお仕事を辞め、フリーランスになりたいという要望も強かったのですが、災害はいつ発生するか分からないという危機感もあり、たった三年の間に一気に二棟を遠隔地に保有する態勢を構築されました。
いつ首都直下型地震が発生しても、80kmも離れた場所ならば大丈夫、ないしは被災の程度に差が出る可能性が高いだろうと言う状況を早々に作り出したのです。
年間賃料は約1,600万円と約1,300万円、管理会社は別な大手二社に分散発注、施工会社は両物件とも同じ大手アパートメーカーという組み合わせになっています。
(2) 茅ヶ崎市と船橋市 居住地:茅ヶ崎市
この方は地元でも屈指の地主家系であり、船橋市の物件は茅ヶ崎に元々保有しておられた二棟の賃貸アパートのための「防衛資産」とか「相続対策のための一時保有資産」という位置づけが明確です。
賃貸アパートによる相続対策で、相続税額はほぼゼロにしたとはいえ、いざという時には簡単に手放せる防衛資産が主要資産と同時に被災していては話になりません。
よって災害リスクの分散の観点からも、三棟目は当社のアドバイスに従い、遠隔地限定で最初から物件選定をしています。
年間賃料は約1,000万円と約1,300万円、管理会社は別な大手二社に分散発注、施工会社も別、更に施工時期も分散できたため、老朽化リスクにも対応できています。
(3) 横浜市と所沢市 居住地:横浜市
この方も地元では屈指の地主家系であり、未だに当社には数年おきに駅前の私道の通行承諾等の相談が多くの不動産業者から持ち込まれるほどです。
実はこの方の主要資産が分布する横浜市には、賃貸アパート複数棟、貸し地等々、複数の資産があるのですが、次の賃貸アパート投資の決定がなかなか出来ず、五年ほどの時間が過ぎてしまいました。
五年というのは仮に年間賃料1,000万円の物件ならば5,000万円の損害です。
事業にとっていかに時間、スピード感が重要なのかという良い事例であろうと思います。
年間賃料は約600万円と約1,000万円。横浜市の物件は一棟が築40年等、老朽化が激しいため、資産組み替えを検討中のため、賃料が一時的とは言え大きく減少しています。
管理会社は別な大手二社に分散発注、施工会社は両物件とも同じ大手アパートメーカーという組み合わせになっています。
(4) 宇都宮市と川崎市 居住地:横浜市
この方は元々保有されていた宇都宮市の資産の、相続対策として川崎市の賃貸アパートを保有されました。
本件では相続対策の手順を簡単に説明しますが、まず川崎取得前段階での相続税を税理士が計算します。これは言ってみれば、なにも相続対策をしなければ、いくら納税しなければならないかを明確にする作業です。
この方の場合には概ね4,500万円くらいの納税額が計算で求められたため、この金額から逆算して、「購入すべき賃貸アパートの金額規模」を当社、建築家、アパートデベロッパーが共有し、物件選定に当たりました。
注視していただきたいのは、エリアだとか、物件だとか、条件が先では無く、とにかく納税額が先に決まっているところです。相続対策ですので。
その納税規模に対して、確実に節税効果を発揮できる賃貸アパートの規模を求めた上で、節税効果に確証を持ってから、アパートの立地、賃料条件、施工内容などが検討されていくのです。
ですからあえて書きますが、節税などはできるに最初から決まっているのです。
まとめ
以上のように、遠隔地に複数棟の賃貸アパートを保有すると言っても、決まりやルールはありません。だからこそ、各々の物件に相応しい専門チームの組み合わせを、適切に構築することが必要になってくるのです。
上記の方々の成功例を見てみても、一つとして同じ組み合わせはないのです。と同時に、災害リスク以上に経済的なリスクを負う可能性が高い、「一社と系列に全てお任せ」という体制も、誰一人採用しておりません。
いずれにせよ当社の場合、それら別々な管理会社も、バラバラな施工業者も、全て当社が一元的に管理、差配する仕組みとなっています。