賃貸アパートの値上げ検討

投稿者: | 2021年12月14日

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借り上げ保証から自主運営への運用方針の転換

借り上げ保証物件の運用(賃料設定)に、妥当性が無い場合が多いというのは別記事の通りですが、自己保有物件を「相続対策」完了後に「資産活用向け」に運用方針を転換する場合、賃料設定は全て、事細かに見直す必要があると思います(強く、この作業をお勧めします)。

 

この作業のために “必須” となるのが賃料の実績を過去相当年に渡り、取りまとめたチャートの解析であると当社では考えていますが、サンプル数として1,000件程度は欲しいところです(地方都市や乗降客数の極端に少ない首都圏駅では500件程度になってしまう場合もありますが、数件、数十件が比較対象の事例という場合は “あり得ません” )。

本稿では実際に、最近当社が実施したA地区でのこの作業のアウトラインを、B地区との比較検討内容も含めて簡単に説明したいと思います。

借り上げ保証業者の設定賃料の分析と、健全性の判定

(1) 賃料の妥当性

前項のチャートからA地区の妥当性ある賃料を導けば、概ね全ての住戸判定は「OK」となります。最低限、取るべき賃料は健全に、満室に、取れていると言うことを意味します。

 

(2) 長期契約住戸

A地区の運用は安定してはいるのですが、しかし一方で入居期間「70ヶ月」と言う、長期契約住戸が実に半数を超えています。これは簡単に言えば、借り上げ保証型運用の段階で、担当者に放置されていた物件であるという事を意味します(清掃、メンテ、管理をしていないという意味では無く、「運用戦略がない」と言っています)。

 

6年も放っておいたなら、気に掛ける必要があります。つまり、たったこれだけの検討からも、A地区において最初に手を付けるべき課題は、「70ヶ月住戸」への対応であるという事が簡単に分かります。もっとも、やることは分かっても手順は再度、熟考する必要がありますが。

 


また、言うまでも無くお分かりのことと思いますが、退居費用がオーナー負担で簡単に100万超等なる、所謂ゴミ屋敷はほぼ100%「長期契約住戸」の延長線上にあります。「長期契約住戸」はむしろ一定のリスク要因であるという考え方も出来るのです。

 

(3) 「注★」表記

判定がほぼ全て「OK」だと、だから「安心」というのが多くの資産家の陥りがちな間違いです。資産運用、賃貸アパート経営において、「OK」と言うのは安全な状況であると言うイメージは間違いはないですが、ならば、リターンは “限定的である” という風に思考を展開する必要があるので。

 

物件が埋まる理由を、ほとんどのオーナーは自分の物件が人気だからだと思い込みたいのは無理も無いことです。しかしもう一方で “安いだけ” という理由も合理的に存在し得るという、客観的な観察は心がけておく必要があるでしょう。

 

表中の「注★」表記は、これ以上賃料を上げると、周辺相場を逸脱してしまい、入居者から敬遠される可能性がありますよという意味の強い警告です。

 

だから “駄目だ” と考えるのを止めましょう。

 

むしろ全ての住戸を「OK」で安全運転するのでは無く、詳細なデータに基づく明確な戦略に則り、計画的かつ確信的に「注★」の高額賃料にトライしていくという事が、賃貸アパート経営では重要な取り組みとなります。今の家賃がいつまで取れるかは、何一つ保証されていることではないのですから。

他地区との比較による戦略の明確化

(1) 賃料の妥当性


B地区は既に自主運営をしている物件ですが、今年は4件の退居があり、その全てが “値上がり” して入居したと言うことが分かります。B地区はこうした作業を既に数年繰り返していますから、前項で触れた、「妥当性ある賃料」自体を一昨年くらいに大きく上方修正しています。

美味しいと近所で評判になり、客が溢れているレストランが値上げしたイメージでしょうか。毎年毎回、値上げを繰り返しても入居が滞ると言うことが無いので(そうなれば勿論、方針を見直します)、賃貸アパート経営の根幹たる、当該物件における基礎賃料そのものを見直しました。

 

(2) 長期契約住戸

ここでご注目いただきたいのが「NG」判定の住戸がいくつか出ている点です。「NG」とは言うまでも無く、周辺住戸の運用に比して「安すぎますよ」という警告なのですが、ご確認下さい。

 

これこの通り、長期契約住戸に分布が集中します。

 

確かに昔から、「賃貸は安くても長く借りてもらった方が良い」などと言うものですが、計算した人はいるのでしょうか。実際の解析結果は、上記の通り、まるで異なります。

 

「賃貸は安くても長く借りてもらった方が良い」と言うのは、おそらくはオーナーに以下に対処する技術や知恵が無いとか、対処すること自体が面倒だという理由で、本来すべき仕事を放り出した結果出てくるだけの話なのでは無いでしょうか。

 

 

  • 空いてしまうと募集費用が結局掛かる
  • 入れ替わったら賃料は基本的に下がっていく
  • ずっと同じ入居者ならば、補修する必要も無い
  • 入退居があると、補修箇所、新賃料等々、考えなければならなくて面倒

 

当社サイトをお読みいただいている方は十分ご存じの通り、当社では常々、これら全てに的確に対処してきています。ですから+Cの賃貸では、特定の住戸を、無駄に安価に長期間、借りていただく必要は無いのです。

 

(3) 管理費の値上げ

B地区で特徴的なのは管理費の値上げでしょうか。ここは感覚的にお伝えさせていただきますが、当初2,000円だった管理費を多くの住戸で4,000円にするのに、三年かかっていないと思います。

 

総額では月額35,000円が70,000円というイメージでしょうか。

年間なら420,000円。10年なら420万円という事です。

 

そう書くと、非常に安易に2,000円分、自分は何もしないで管理費の数字設定だけを動かそうとするオーナーがたくさんありますが、いかがなものかと思います。

 

B地区での手順は以下の通りです。

 

  • セコム特約条件の設定導入
  • WI-FIの無料通信速度及び容量の大幅改善

 

大事なことを書きます。

 

  • 楽して稼ごうと思わない
  • 人に求めるなら自分も与える

 

こんな当たり前の前提に立つだけで、今まで誰も実現出来なかったような戦略も、なんらの混乱無く、粛々と進みます。賃貸借契約継続中の住戸に対する値上げのお願いなのか、入退居の入れ替わり時まで待った方が得策なのか、当然に戦略は求められます。

 

なお、この作業の中で当社の提供資料によって現地担当の管理会社がある入居者の方に、当該住戸の賃料、管理費は現在は不適切に安くなってしまっており、改善の協力をお願いしたいとの申し出をさせていただいた際、「良く承知している。人気物件で周りの家賃が高いのも、募集状況がネットで分かるので、自分より高い賃料ですぐに埋まるのもよく知っている。逆に、安く住まわせていただいていて申し訳ない」と言われたとの報告がとてもありがたく、印象的でした。

まとめ

以上検証に基づき、専門コンサルがこうしたトライアルを毎月繰り返している物件と、この20年、分析などはしたことも無く、よって値上げなどは考えたことも無く、多くの住戸はもう10年以上、安定して入居続けている物件。

 

いずれが効率経営であるかは考えるまでも無いことです。

 

一室当たり2,000円の差が、簡単に400万円になるところが、賃貸アパート経営のとても怖いところなのです。

―不動産業界の常識を疑え―