1994年に住宅の地下室部分の容積緩和規定が出来ました。
更に! この「地下」とは「土の中」という定義ではありません。
目次
住宅地下室部分 容積緩和の法改正
第一種低層住居専用地域には、良好な住宅地の環境を保持するために厳しい制限が設けられています。
極端に隣近所が密集したり、日照を遮るような高い建物が建築されたりすることが出来ないようにするためです。
地下室というと繁華街の商業ビルをイメージされる方も多いかも知れませんが、第一種低層住居専用地域においても、こうした厳しい面積制限を多少なり緩和し、広い床面積を確保できるようにしようという趣旨から、94年に地下室部分の容積緩和のルールが法改正に盛り込まれました。
確かに地下部分ならば、建物が大きくなっても、近隣への影響は最低限に出来ますよね。
地下室という実は半地下
この規定によれば地下室の天井は、地盤面から高さ1mに設定できるため、実は完全に地下に埋めなければならないというわけでもないのです。つまり半地下で良いのです。
あくまでも「住宅用途の容積緩和」が趣旨でしたから、太陽が入らないような、まさに商業ビルの地下のような環境を作られても好ましくないという意図なのでしょう。
ですから設計者に能力があれば、工夫次第で、一定の採光、通風を確保しつつ、法律の利点を最大限に活用して、指定容積率の制限を超えて、広い床面積を合法的につくりだすという事が、現在は可能になっているのです。
条文解説
建築基準法第52条第3項では「(前文省略)延べ面積には、建築物の地階でその天井が地盤面からの高さ一メートル以下にあるものの住宅の用途に供する部分(共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分を除く。以下この項において同じ。)の床面積(当該床面積が当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計の三分の一を超える場合においては、当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計の三分の一)は、算入しないものとする」と規定されています。
いつも思うのですが、建築基準法の条文は、なぜこれほど読みにくく書いてあるのでしょうか。
この条文は(私も含めて)、多分、しっかり理解できている不動産業者は居ないだろうと思いますので、「地下を作れば、『だいたい』、普通の1.5倍『くらい』の床面積が確保できるようになるのだ」と、ご理解いただければ十分かと思います。
図解すれば一気に簡単になるので、整理してみましょう。
法文の詳細を確認される方のみ、続きを読み進めていただき、ご興味無い方は飛ばして次項をお読み下さい。
Sa=指定容積率による延床面積の上限値
Sb=地下室がある場合の住宅の床面積
BS=地階の床面積
通常、住宅の床面積は、Sa となります。容積率で延床面積の上限が決まります。
地下室がある場合の住宅の床面積をSbとします。地下室の面積 BS=< Sb/3 であれば、延床面積にカウントしなくて良い、というのが第52条第3項の条文ですから、Sb-BS=<Sa が成り立つようにすれば良いわけです。
単純にするためにBS=Sb/3 Sb-BS=Saとすると、Sb-Sb/3=Sa です。
つまり、Sb×2/3=Sa ですから、Sb = 3/2 ×Sa という式が成り立ち、地下室をつくることで、床面積を1.5倍まで増やすことができるのです。
建築コストと土地代のバランス
ここまでお読みいただくと、ならば敷地が細分化されている東京の23区内などは特に、どの住宅も地下を掘って、敷地に対する容積を最大限有効に活用したらよいではないか、と思われるかもしれません。
しかしこれがなかなか難しく、地下を掘るにはお金がかかるのです。その費用は一般的に地上での建築コストの1.2倍~1.5倍と言われています。
これがあちこちの住宅に、どこにも地下があるという状況にならない大きな要因なのです。
仮に土地24坪という、良くあるパターンをケーススタディとして具体的に計算をしてみましょう。
●地下を掘って工事費にお金をかけた場合
土地:24坪×@350万円=8,400万円
建物:地上20坪×@100万円+地下10坪×150万円=3,500万円
合計:11,900万円
●同じ建物面積を確保するために1.5倍の広さの土地を買った場合
土地:36坪×@350万円=12,600万円
建物:地上30坪×@100万円=3,000万円
合計:15,600万円
差額:3,700万円/15,600万円 →23.7% お得
つまり、土地の坪単価が高額なエリアでは、土地を広く買った方が総額は上がってしまうのです。
これを逆に言えば、土地代が高額なエリアにおいては、地下部分を上手に活用できている物件は土地を上手に活用できている可能性が高いということが言えるでしょう。
ましてや中古住宅の売り物件などの場合には、ここにクドクド書いたような努力も時間も、買主は一切掛けずに済む訳ですから、購入対象としては極めて費用対効果が高いという事が、言えるのかも知れません。