賃貸アパートの立地選定4 事業優位性に直結する要因

投稿者: | 2021年6月13日

目次

 [ この記事のポイント ]

 ● 23区からの人口流出が発生している。

 ● 人口や乗降客数の大小、人口の増加率ともに賃貸アパート経営とは直接の関係性がない。

 ● 賃貸アパート経営の事業優位性は、むしろ初期投資の効率化やデザイン性の追求、運用段階での工夫や新しい仕組みの導入により、大きな影響を受けている。

 はじめに

23区から人口の流出先の受け皿となっているエリアであれば、人口は増加しており、かつ優位に事業が展開できるだろうと誰もが考えるでしょう。しかし言われてみれば当たり前で、誰でも分かるその程度の事が投資判断の決定打になるのなら、そのエリアの土地は高騰しているに決まっているのです。

 

いくら満室の賃貸アパートを保有したところで、土地取得費を含めた初期投資額が膨らめば事業の効率性はバランスを欠いて悪化します。良い事業になるわけがありません。

 

その説明として、人口や乗降客数の多いエリアでの賃料単価や事業利回りの検証をまとめてきました。結果は既に皆様、お読みになっている通り、人口が多くても、乗降客数が多くても、人口増加率が高くても、必ずしも事業効率性は上がらないという事が証明されました。

 

しかし上記検討でサンプルとした各事業には、実際に事業優位性は数字として明確化されています。以下、順次検証します。

 賃料単価の検証

基本的に貸し床1㎡あたり、月額いくらの家賃がリターンするかという考察は、当然と言えば当然なのですが、横浜や川崎といった首都圏主要都市の方が強さを発揮します。ただ、その中でも大宮、船橋等々のデザインの関わりが希薄な物件よりも、所沢の完全デザイン物件の方が好結果を得ています。

つまり、建築家によるデザイン性と賃料単価の間には一定の関係がありそうで、地方都市であるGを除けば、初動期にきちんとデザインを行うことが、賃料単価を上昇させる要因になり得ると言うことは言えそうです。

 利回りの検証

賃料単価が高額であることは、当然に事業にとって有利な条件ではありますが、上記結論が横浜や川崎と言った、土地代の高いエリアに集中してしまうのであれば、事業効率の指標である利回りは有利に展開するとは限りません。

 

「賃貸アパートの用地選定」は、連続記事として長々と難しい話をしてきましたが、ここで驚くほど単純に、供給戸数が多い方が有利らしいと言う結論が観察できます。ただしこれは、言うまでも無く、50戸、100戸、200戸と増えていけば良いという話では無いだろうと言うことは、誰にでも想像が付くと思います。事実当社では基本的に50戸を超えるような規模の事業を、個人事業主の場合には推奨しておりません。

少なくとも言えることは、事業規模20戸前後は非常に効率が良いと言うことです。

 

実はこの事は、今回の記事とは無関係に、随分前から当社では指摘していることで、経験や事象に基づく根拠も勿論あるのですが、ここではまとめきれないため、その紹介は会員サイト等でまたの機会とさせていただきます。

別な観点としてACBに共通するのは、デザイン監修を行っているという部分でしょう。例外であるEは築3年時点の中古購入ですから、デザイン的な魅力というよりは圧倒的に安価に建物一棟を購入できているため、大きな利回りの上昇を招いているのだと思います。逆にデザイン監修と住戸の設計まで設計者に依頼をしたGは、地方都市という事情が、どうしても利回りを引き上げられない要因になっているのだと思います。

 注目すべき留意点

さて。折角の検証ですから、ここで皆様も当社説明の矛盾点。当社の説明でつじつまが合わない物件を探してみて下さい。

 

お分かりの方も多いと思いますが、Fは設計の関わり方も、デザイン監修という簡易なものではなく、住戸のみでもなく、建物の耐震、構造、間取り構成まで、いわば一から十まで全てを建築家に依頼しています。住戸数は確かに12戸とやや中途半端ですが、首都圏主要都市の事例であり、地方都市での6戸の事例Gに劣る利回りというのはつじつまが合いません。

 

ここもあくまでも推論となりますが、以下のようなことが言えるのではないかと、当社では反省を含めて総括している次第です。

● 近隣商業地域風な立地への配慮から1階の階高を非常に高くした

● このため東側に建物が出来ても、1階も高い窓から日照が確保できる半面、建築コストが上がってしまった

● 関連して窓位置が通常よりも高くなったため、付属品も特注となった

● また施主の要望に逆になんでも設計能力的に対応できるため、住戸のプランが全12戸に対して4種類にもなり、施工コストの増加に繋がった

記述は全てが一長一短であることがご理解いただけると思います。当然のことながら、これらの努力が賃料に直接的に反映できれば、全ては優れた工夫であり、事業上の課題として顕在化することもなかったでしょう。

 

ただ、本件においてはあくまでも結果論としてではありますが、掛けた分だけの設計努力、工事費が、残念ながら賃料という形でリターンしているとは言いにくい状況です。勿論今後、本当に東側の開放面に大きな建物が建てられてしまったとき、コストは係ったがこの階高にして置いて良かったと思えるときが来るのかも知れません。

 

ただ、ひとつ言えることは、設計者にきちんとデザインをしてもらうべきであると言うことは当社が言い出したことではありますが、そのさじ加減は慎重にコントロールする必要があるだろうと言うことです。

 

例えばテレビドラマの舞台となったり、雑誌に出てくるような、ため息が出るほど美しいデザイナーズ賃貸住宅というのは確かに存在します。でもはたしてそこまでの工事費が事業として適切であったのか。事業としての優劣の検証は、独立性を持って、なされるべき事なのです。