1. 安易な納税方法選択に潜む大きなリスク

多くの資産をお持ちの方の中には、わざわざ相続対策をしなくても、銀行から資金を一旦借りて納税しようというお考えの方もいらっしゃるかと思います。それも確かに一つの方法に間違いありませんが、その方法で抱え込むリスクについて、どこまで検証し、またどこまで当の貸主である銀行から説明があったでしょうか。

「うちは銀行とは長い付き合い。借入期間中の返済は金利だけ(元本免除)で非常に楽だから大丈夫」

先に申し上げておきますが、これこそが本項における最大リスクを含む銀行からの提案なのです。

「借りたものはいつか必ず返済する」という当たり前のことを忘れないでください。そして、銀行が借主に対して、「私たちが損をしてでも助けます」ということは基本的にはあり得ないということを肝に銘じておかなければなりません。

ここからは仮に、相続税額が4,000万円となった場合「銀行から借りて納税する」という方法をシミュレーションしてみます。4,000万円を借りて返済するということが、どういうことなのか。具体的にイメージすることができると思います。

(1)  借入4,000万円の10年返済は、毎月35万円×120回

きちんと計算もせず、なんとなく大丈夫では無かろうかという感覚は、実は多くの場合、全く大丈夫ではありません。

 ・借入額4,000万円 借入金利1.2% 10年元利均等返済。

 ・この条件の場合の月額返済額は353,899円にも上ります。

毎月35万円を10年間に渡り(120回払い)銀行に返済してようやく完済です。不幸にもこの間にあなたに万が一のことがあれば、この義務は子どもの世代が引き継ぐことになります。
毎月35万円を返済できれば問題はありません。出来なければ別な方法を考える必要があるのでは無いでしょうか。

(2) 20年なら返せるか

「4,000万円も借りたら完済には20年くらいは掛かるのではないだろうか?」

その通りであり、この金銭感覚は非常に正しいと思います。相当な高給取りでも無い限り、4,000万円を10年で返済することは、普通の人にはほぼ不可能だと言うことが、前項で理解できると思います。

 ・ 借入額4,000万円 借入金利1.2% 20年元利均等返済。

 ・ この条件の場合の月額返済額は187,548円。

いけるかいけないか、微妙なジャッジの方が増えてくる返済額ではないかと思いますが、そうは言っても、家賃や住宅ローンを2重に抱えるような金額ですので、なかなか難しいのではないでしょうか。そのような負担がない方であれば、もしかすると可能なラインかもしれません。

(3) 全部計算してみたが、20年ではちょっと毎月が厳しい

更に30年を計算してみましょう。あなたの様に計算すれば、今すぐ分かることを、なぜ多くの資産家の方は計算しておかないのかと、非常に不思議に思います。

・借入額4,000万円 借入金利1.2% 30年元利均等返済。

・この条件の場合の月額返済額は132,363円となります。

ここまで来ると、かなり現実味を帯びてくるでしょう。

相続に関して、何の準備もせず、4,000万円も他人から借りたのだから、それを貯めるための苦労を先送りしたのだと反省すれば納得も行くでしょう。

でもイメージしてみて下さい。
今から30年後というのは、あなたから次世代への、次の相続発生の何年前ですか?

(4) 「うちは金利だけ」 -借入期間中は金利だけ支払う-

最後に、冒頭お伝えした、このパターンの銀行の本音をまとめておきましょう。

「うちは銀行とは長い付き合いだから、借入期間中の返済は金利だけ(元本免除)で非常に楽だから大丈夫」

これがもっとも危険と冒頭お伝えしました。

一見、優しい提案に思えますが、全くそうではありません。

・具体的に、首都圏の当社のクライアントの実例をご紹介します。

10年前、先代の相続が発生した際、土地を担保に相続税の納税資金として、SN信用金庫から8,000万円を借用しました。

・相続人であったこの方は当時、8,000万円もの大金を、依頼してすぐに貸してもらえたため、土地も売却することなく、本人の負担もなく納税を済ませることができました。

・この時の条件が、「金利だけを返済」というものであり、それは生活に支障をきたす額ではなかったため、大変感謝していたのですが、当たり前ですが10年経っても元本は減らず、10年経っても返す目処は立ちません。

・結局はせっかく相続した土地を売却して返済するしかないという状況に陥ってしまいました。

・どの不動産業者に相談しても、「土地を全部売るしかない」という回答しか得られなかったのですが、当社がコンサルティングすることで、土地も半分以上の面積を残し、次の世代へ引継ぐ道筋も整えて、無事に切り抜けることができました。

・この時にSN信用金庫の抵当権は完全抹消。お施主様が完全に縁を切ったことは言うまでもありません。

こうした暴力的な提案は、以下のような目論見の元、一部の銀行から今でもなされています。

・ 銀行は数十年に渡り、減らない元本に対する金利を獲得できる

・ 元本返済は土地を売却して現金化するか、抵抗されても競売実行すればよい

上記(1)~(3)で元本の4,000万円を返済するのはとても大変なことであると、ご理解いただけたと思いますが、生活への負担を限りなく少なくするために金利だけを返済し続けるという方法は、更に、最悪の事態を招くことになるのです。
と、言うよりも、そういう提案をするような銀行というのは、あなたへの親切で元本返済を免除しているわけではないのです。
取れるだけ金利を搾り取った後、土地も売却させて元本を回収しようと、最初から全て計画しているのだと思った方が良いでしょう。
1つの検証として、皆様の最寄り主要駅、駅前の土地の登記簿謄本を取ってみましょう。多くの土地で、採算も合わない商売に銀行が貸し付け、名義が元地主から変わってしまっている物件が見つかると思います。

「納税資金を借り入れて、金利のみを支払う」というのは、上記(1)~(3)に比すれば、毎月の生活は大変楽になるでしょうが、そんなにうまい話には、どこかに落とし穴があっても、何も不思議は無いのです。

以上、まとめた通り、 「今、4,000万円の相続税納税額を消す」 と言うことには、こうしたリスクの全てを排除出来るため、実は途方も無い意味があるのです。

「銀行とは昔から良い付き合い」と吹聴している先代には、くれぐれも、ご注意ください。多くの場合、銀行と事を構えるのは、その有力な先代が亡くなった後の話なのです。

もしかすると「銀行とは昔から良い付き合いだ」という日本語は、実は「銀行にとって都合の良い付き合いだ」という意味で捉え直した方が、実態に近いケースも多いのかもしれません。